日本のプロ野球など、非常に恵まれた環境では、大量のボールを使って練習することが多いのです。
もちろん選手の数やサポートするコーチ・裏方のスタッフ、そして球拾いのためのアルバイトも沢山います。
選手は、一箱、200球ぐらい入っているでしょうか、そのかごを、何箱も何箱も、バッティングし、ノックを受けています。
ボールが足らなくなって、途中で練習が中断することなどありえません。常に補給されます。
ひっきりなしにボールが集められ、休む暇などありません。
ノックをするコーチには、ボール渡しが付き、かごには、大量のボールが入っています。
選手はたまに、数十秒の、インターバルをもらえるだけです。
特守になると、1人で1時間ぐらいノックを受け続けることなどざらでしょう。
そこには、日本の伝統的な守備練習の光景が広がります。
私にとっても、見慣れた光景です。
ある日、ベテランコーチが私に話してくれました。それは、そのコーチがアメリカにコーチ研修に行った時の話です。
若き日の、Aロッドをマイナーリーグで見たというのです。
そして、彼は、マイナーのコーチから、ショートのポジションで一人でノックを受けていたとのこと。
日本でもよく見かけるシーンです。
しかし、日本と明らかに違っていたのは、用意されたボールの数。
しかもコーチにボールを渡すスタッフはいない。本当の一対一。選手とコーチのみ。
用意されたボールは、革で作られた手さげのボール入れ、そこに50球ほど入っていたのではないかということです。
コーチは、ショートのポジションのAロッドに対して、ノックを打つ。ロッドは、ボールをキャッチすると、一塁ベースに設置された、ネットに向かって送球する。これを間隔をとって、繰り返す。
数十分もすると、ボール入れのボールがなくなる。するとコーチは、手提げのボール入れをもって、一塁へ。ロッドも歩いて一塁へ向かう。そして、二人でボールを集めるのです。
その時二人は、先ほどまでのノックのキャッチングの事、送球の事などを話し合い、確認して、再び、守備位置へと戻っていき、二回目のノックが始まる。これを何回も繰り返すのだそうです。
そこで、日本人コーチは思ったそうです。
ボールが少ないことで、ボールを集めなければならない。しかしそのボールを集めている時間帯は、ロッドは体を休めている。特に、肩・肘は休めている。
そして、コーチと話し合いながら、今のノックについて確認する。そしてまた、お互いで確認した、チェックポイントを意識しながら次のノックが始まる。
このボールを拾っている時間のインターバルは、数分間だろう。しかし、その数分間があることで、Aロッドの肩・肘を含めた体力は回復し、また、頭の中を整理し、選手とコーチの共有された確認事項について、課題をもって再びノックを受ける。
これこそ、集中力も、課題解決も、障害予防も、コーチと選手の信頼関係も、すべてにおいて理想的な練習なのではないかと、言うのです。
もちろん、数だけで行けば、200~300球のノックを受けるのにも、日本ならば、数十秒の休みしかなく。しかも一つ一つのノックの間隔が短い。数十分もあれば終わってしまうでしょう。選手は疲労困憊です。
それに比べて、何度もボールを集めに行かなければならないアメリカ方式は、日本の何倍もの時間がかかってしまいます。しかし、選手の疲労度は、日本に比べて軽い。そしてその練習の効果は?
果たしてどちらがいい練習なのでしょうか?
もちろん、一気に数多くのボールを受ける練習の意味がある場合もあるでしょう。
しかし多くの数の、ノックを受ける方法にもこんなやり方があるのだということを、覚えておいてほしいのです。
一見、不便に思えることの方が、実は良い練習になっているかもしれないと。
練習というのは奥が深いものです。
ただ何も考えず、数をやればいいってもんじゃないですね。
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