走り込みについて話そうと思います。

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野球界において、特にこの時期、冬の期間は、高校生は対外試合が出来ず、また中学生たちも、大きな大会がなく、正月休みや、年度変りも控えており、新チームの更なるレベルアップのために、基礎体力作りの一環として『走り込み。』と言われるメニューが多く取り入れられてきました。

このことについては、多くの意見があり、意見が分かれています。メジャーリーグのダルビッシュ選手もどちらかと言えば、走り込み不要論なのかもしれません。

私は、約30年前からプロ野球のコンディショニング・トレーニングに25年間携わっていました。

当時は、球界にもコンディショニングコーチと言う存在が、まだ球界に数人しかいませんでした。

しかし当時の近鉄バファローズは、球界を常にリードしており、私を含め2名のコンディショニングコーチがいました。

特に私たちは、投手との関わりが多く、入団したての頃は、ピッチングコーチがランニングメニューを作成し、それを私たちが手伝っているという状況でした。

ウエイトトレーニングに関しても、球界でいち早く取り入れ、時代を引っ張っていました。ちょうど野茂選手が入団し、メジャーリーグのノーランライアンの調整法を取り入れ、それと同じくして、近鉄の投手陣は、最先端の調整法を行っていました。

今となってはどの球団の選手も、ランニングメニュー・コンディショニングメニュー・ウエイトトレーニング・休日など、普通に調整法として実践しているのではないでしょうか。

当時はまだ、そのような調整法で現役を経験したコーチはおらず、常に、投手コーチ・野手コーチ・打撃コーチとの意見のぶつかり合いが行われました。

『ウエイトなんかしてる暇があったら、もっと走れ!』

『もっとバット振れ!』

『もっとノック受けろ!』という状態。

入団すぐ私はファームを担当していましたので、理想と現実のギャップには、本当に悩まされました。

2軍選手は、16時ごろまで試合をし、その後、特打・特守。そして動けなくなるまで練習をさせられてから、私の所にランニングにきます。もうすでにバテバテです。

それが終わってから、やっとウエイトトレーニングの時間です。遅くなればもう18時前、しかもトレーニングルームにやっとたどり着いたころにはフラフラ。

しかもその時の、寮生の食事が18時30分までに入らなければ、寮長がぶちぎれて、選手は夕食をろくに食べさせてもらえない。当時の寮長にもかなり問題があって、選手は、板挟みになって、可哀想な思いをしていました。

私も本来、トレーニングをさせるべきなのですが、選手は動けない、時間もない、お風呂にもまだ入っていない、早く戻らなければ食事もとれない。そんな状況でした。

もちろん寮生は食後に夜間練習が待っています。トレーニングをする時間も、体力も残っていませんでした。今では考えられないことかもしれませんが、コーチたちは、自分がウエイトやコンディショニングなどした経験がないので、ほとんどのコーチが理解を示さないのです。

それでも、唯一の救いが、一軍の監督が仰木さんだった事。仰木さんは自分自身も毎日トレーニングルームに来て、ウエイトトレーニングをしていたので、私たちの考えを尊重していただきました。

私にも、『遠慮せずに、思いっきりやれよ!』と背中を押していただきました。そして、少しづつ少しづつ、技術コーチも理解を示してくれるようになり、投手のランニングメニューなども、コンディショニングコーチが作成するようになっていくのでした。

しかしまだまだその頃は、いつも

『赤川!もっと走らせろ!』『もっと走らせろ!』ばかり言われていました。

『もっと!もっと!』って、『じゃぁ、あと何本走らせるんですか?』と尋ねても、明確な答えが返ってきません。

『そんなもん、自分で考えろ!』って言われます。

まぁ、めちゃくちゃな話です。選手が倒れそうになって、バテている姿を見ないと納得しないのです。もちろん私たちのメニューにも、かなりハードなメニューもあります。しかしながら、選手は決してバテていなくても、効果のあるメニューはあるのです。選手が『ハァハァ』言っていないと、納得しないのです。最初の10年間ぐらいは、そんな事ばかりの日々でした。

そして月日がたっていくと、私たちが取り入れてきたコンディショニングと言う考えのもと、育っていった選手たちが、次にコーチになって、私たちと一緒にコーチングスタッフとして働くことになっていくのです。そうなってくれば、私たちの指導やコンディショニングの考えで現役を送った選手ですから、私たちの考えをどんどん理解してくれるようになってきたのです。

初めの頃は、キャンプにおいても、シーズン中においても、ウエイトトレーニングの時間は、すべてのメニューが終わった後。トレーニングコーチだけが残って選手と勝手にやっていると言う状況。ウエイトトレーニングが終わって、ロッカーに帰ってきても、他のコーチ達は、とっとと帰っています。誰もトレーニングの様子すら見に来ませんでした。しかし月日が流れてくると、技術コーチたちも、トレーニングルームを覗きに来たり、自分も少しトレーニングをして帰ったりするようになってきました。そうなってくると私たちコンディショニング担当と技術コーチたちとのコミニュケーションもとれて、ランニングメニューなどについても信頼していただけるようになってきたのです。

今では、プロ・アマ関係なく、トレーニング担当・コンディショニング担当・トレーナーなどの意見を参考にメニューが組み立てられているのではないでしょうか。

そんな時代を経験してきた私が、長距離走や走り込みと言われるランニングメニューの事を考えてみました。

私はいつもいろんな方が、いろんな媒体を使って、特にランニングやウエイトの事について、発信して意見を述べられていることに少し違和感があります。この問題は、そんなに簡単にひとくくりにして、語られるようなことではないと思うのです。

例えば、『野球選手には長距離走は、いらない!』と決めつけている人もいますよね。それに関しても、私は?です。もちろん、野球と言う特性からして、長距離を走るような持久力は実際のプレーには関係のないことなのかもしれません。しかしながら、私はいつも思うのは、機械がやっているのではないということ。選手には、そこまで来た過程があり、そして個人個人に心があり、考えたり、思ったり、いろいろな感情があるということなのです。長距離走や走り込みと言ったメニューには、そういった様々なことが絡み合って成り立っていると思うのです。それをまた、『根性論』と言う、一言で片付けることでもないと思います。そんな簡単に白や黒の様に決められないのではないでしょうか。

実際に、プロ野球の選手でも、自主トレのこの時期は、自分たちでメニューを考えてランニングをしたりするのですが、ほとんどの選手が、長距離もポール間も、ガンガン走っています。

また、シーズン中においては、外国人の先発ピッチャーは、当番翌日には、みんなのウォーミングアップの前に球場に来て、京セラドームやホットモット球場などの、ホームグラウンドの観客席を一周するのです。すべての階段を上り下りしながら。とてつもなく時間がかかるし、先発の翌日にするのはかなりハードなメニューです。皆さんがイメージしているよりも、外国人のピッチャーは、めちゃくちゃ走ります。それも自ら考えて。

では、私が現在の野球界で行われている長距離や走り込みに対するマイナスの点をあげるとすると、

・ただ、長い距離を走らせれば、体力や持久力が付くと思っている。

・下半身が強くなると思っている。

・しんどいことを乗り越えさせなければならないと思っている。

・罰として走らせる。

・冬の時期だから走りこませる。

指導者側が、もしこのような理由だけで、選手を走りこませているのなら、私も、それは大反対になるでしょう。

それは、

・野球のスポーツの特性上、長距離を走るような体力や持久力は実際のプレーには必要ないからです。

・このような持久的な下半身の強さも少し違うと思います。

・しんどいことを乗り越えさせることは、スポーツだけでなく、人生においてもとても大切なことです。しかし、そこまで深く考えず、ただしんどいことを走りこみでやらせたところであまり関係はないと思います。

・罰走は、今の時代、もうアウトでしょう。パワハラになるでしょう。

・冬の時期だからと言う理由だけでは違うのではないでしょうか。

このように、長距離を基本とした走り込みについてはこのような、問題点があるのではないでしょうか。

また、逆の考えとしては、

・特に中学生は、心肺機能が発達していく時期で、ランニングによる負荷はこの時期大切なのではないでしょうか。

・日本人は、とにかく狭く考えがちで、『野球には必要ない。』と否定するのですが、健全な中学生には、ランニングを含めた心肺機能発達のためのプログラムは必要だと思います。

・優れたスポーツ選手は、総合的に優れています。長距離も短距離も能力は高いです。

・子供たちがこの先、野球以外のスポーツをすることだって考えられるでしょう。

しかし問題なのは、指導者側が、しっかりとこのランニングの意図を説明していないということです。『こういう目的があるから、このランニングメニューをする。だから、ここを意識して走ってくれ。』と明確な意図を説明していないということです。

その日のメニューが、持久走であっても、そのメニューをする意図がしっかりとあるのなら、選手もしっかりと走るでしょう。まずそこが一番の問題なのではないでしょうか。また、意図がないと、やらされている感がいっぱいで、選手もモチベーションが低く、怪我にもつながっていくでしょう。

私はこれまでに、プロの世界で自らの成績の不調を打破するために走り込みをする選手を数多くみてきました。私たちコンディショニングコーチが指示するわけでもなく、自らが長距離やポール間などを走りこむのです。

そこにこそ心が存在し、選手達はいろいろな思いを抱きながら走り続けるのです。そこには、持久力をつけるや、体力をつけるといった次元ではない何かを得るために走り続けるのです。そこには、短い距離のダッシュでは得られない何かがあるのでしょう。自らが走り出すのですから・・・。

また、『これだけ頑張って走ったのだから、きっといい結果が出る。』と自分自身に自信を持たせる効果もあるでしょう。そして一人で孤独に走ることでいろんな想いやいろんな感情が湧いてきて、また自分自身を奮い立たせることも有るでしょう。

このように、身体だけでなく心にも影響を与える可能性が大いにあるのです。これは根性論でもなんでもありません。

この、『これだけやってきたのだから、きっと大丈夫だ。』と思えるための練習方法が見つかればいいと思います。それが、ランニングではなく、ウエイトトレーニングでもいいと思います。そんな選手はウエイトトレーニングを最重要視するでしょう。それでいいと思います。

何かを得るために、何かを打破するために、自ら考えて努力して得たものは、たとえどんなメニューであれ、その個人にとっては正解なのです。それがもしかしたら、遠回りの道なのかもしれません。しかし私は遠回りは決して悪いことではないと思うのです。指導者と選手が、一緒になって考えて、一緒になって取り組んできたことが、遠回りになることだってあるでしょう。でもいいじゃないですか。その時は、一緒に考えて努力したんですから、もちろん、間違えたことに努力するのは良いとは思いません。しかし、その時点では、それがベストだと考えて取り組んだのですから、それでいいんです。近道することばかりを探してはいけないと思います。

方法は何であれ、自分が自分を鍛えることによって自信を持つことが出来るのなら、自らの信じる道を進めばいいのです。誰のためにやっているのでもありません。自分のためにやっているのです。自らが考えてやっているのなら、そしていいコンディションになり、自身を持てるようになるのなら、それが正解なのです。

そしてもう一つ、私が常日頃感じるのは、日本人の農耕民族としてのDNAです。狩猟民族のDNAではないということです。小さなことを大切にコツコツと努力する。本来、農耕民族は、季節を感じて、天気を感じて、準備をし作物を育てる。最初は、荒れ果てた大地を開拓し、土地を開墾し、土地を耕し、種を植え、そして育てるのです。種を植えた後は、水を管理し、雑草を摂り、無駄な、葉を排除したりして、作物が育つまで、コツコツとした地味な、しかし決して手を抜けない、気を抜けない作業が続くのです。

私たち日本人には、そのDNAが入っているんです。やはりその影響は少なからずあると私は思っています。一方、狩猟民族とは、目の前に獲物が見つかれば、命を懸けて襲い掛かる。逆に急に襲われて命を獲られることだってあるでしょう。瞬時に判断し、瞬間的に命を懸けて戦うのです。そしてそのような生活は、いつ獲物が獲れるかわかりません。次の豊かな食事はいつなのかは、保証されてはいないのです。そんな先祖から受け継いだDNAの全く違う人たちが、同じ理論で体の事を語るのは少し違うのではないのかと思うのです。もちろん最先端の、医療や科学、バイオメカニクスを参考にすることは素晴らしいことです。しかし、まだまだ分からないことばかりです。新しい事が、イコール、日本人にとって100%合っているのかは、疑問の目をもって対処するべきだと私は思います。日本人の野球も捨てたもんじゃありません。野茂投手だって、イチロー選手だって、松井秀喜選手だって、そして、大谷選手だって,アメリカの観客たちはビックリしていたんですから・・・。

今までの日本のやり方が全て間違っていたとは思えません。もしかしたら何十年後に、昔の日本の選手がやっていた練習が、見直されるかもわかりません。それは誰にもわからないことですが・・・。

指導者と選手が、信頼関係を築き、いい悪いではなく、本当にその個人にとって、今必要な練習方法を見つけてやることが大切なのではないでしょうか。正解はすぐにはやってきません。数年先かもわかりません。遠回りしたっていいじゃないですか、すべての優秀なアスリートたちが、すべて最短距離で道を開いたわけではないですから。

もちろん、みんなそれぞれ意見があり、考えがあるでしょう。でも私は、簡単に、良い悪い、白・黒、あれは間違っている、自分が正しいというのはどうも好きにはなれないですね。

そんな事よりも、指導者は、たくさんの引き出しを持っている方のほうが、とてつもなく素晴らしいのではないかと思うのです。

いろんなことに対処できる、そんな指導者になりたいと私は思います。

以上、走り込みについて話そうと思います。でした。

 

コメント

  1. 深津正人 より:

    はじめまして。
    この “ 走ることについて ” のお話をチームスタッフのラインにシェアさせていただいても宜しいでしょうか?
    どうぞ宜しくお願いします。

    • 深津様
      はじめまして。
      メールありがとうございます。
      スタッフの方に、ぜひシェアしてください。
      お役に立てれば幸いです。これからもよろしくお願いいたします。

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