ピッチャーにとって、初速、終速などの球速や回転数など、いろんな数字がピッチャーの投げるボールに対して、表現される時代になってきました。
打者からすれば、体感速度というのも重要な要素だと思います。
しかしながら、私にとってはいまだにわからないことがあります。
それは・・・・・・。
私は、プロ野球所属時代、トレーニングコーチ・コンディショニングコーチという立場であったため、NPBの規定では、ユニフォームを着ても着なくても、ベンチに入ることはできませんでした。
しかたなく、本部席や裏の記者席、アナウンスルーム、スコアラー室、スイングルーム、ブルペン、通路、小窓、ウエイトトレーニングルームなど、各球場のベンチ以外の、プレーが見える場所から、試合を見ているか、それが無理な球場の場合には、モニターやテレビで試合の状況を見ていました。
近年では、プロ野球の各球団のホーム球場では当然の事、地方開催の球場においても、バックスクリーンやテレビ放映において、球速が表示されることがほとんどです。
そうやって、私も毎年、毎年、色々含めると年間160試合以上、ピッチャーの投げる球を実際に見てきていたでしょう。自分のチームも対戦相手のピッチャーも。それも25年以上。
そうなると、ピッチャーが投げる球速が、見ただけでわかるようになってくるのです。
真後ろから、横の角度から、斜めの角度から。またはテレビやモニターで見て。などなど、いろいろな角度から見ても、ほとんどわかりました。
正解率は、ほぼ100%。間違ってもその誤差は、1~2km。
すごく自信がありました。
投手はいろんな投げ方がありますし、いろんな変化球がありますし、いろんな角度から投げてきます。しかし、ほとんど正解するのです。
投げた瞬間、『143km』『144km』『138km』『128km』『150km』
『149km』『153km』『147km』と、心の中でつぶやいていました。
まぁ、面白いように当たるのです。
しかし、こんな私の正解率を根底からひっくり返す投手が1人だけいました。
『143km』
打者は空振りの三振。
バックスクリーンの表示は。
なんと!
『129km』
「えぇ?」
「なんで、129km?」
そして次も。
『148km』
表示『123km』
「えぇ?なんで?なんで?」
しかも打者は、空振り。
『138km』
表示『129km』
打者、見送りの三振。
まぁ、まったく当たりません。
しかも、打者は、三振の山。
その投手こそ、オリックスブルーウェーブのエース、星野投手です。
その後、オリックスから阪神にも移籍され、引退後は、オリックスバファローズで、ピッチングコーチにもなられ、私もコーチとして一緒にお仕事をさせていただきました。
星野投手は左投げで、独特な左手の使い方をされていました。最高でも130km台ではないでしょうか。
しかし、当時は、奪三振率もかなり高く、オリックスバファローズのエースです。
近鉄バファローズの当時のバッティングコーチも、
「自分が、現役の時に一番速く感じたのは、星野や!」
「まっすぐと、カーブと、フォークなんやけど、まっすぐやと思ったら、フォーク。フォークと思ったら、まっすぐ。カーブが来て、高いからボールだと見送ったらストライク。カーブが来てストライクだと思って振ったら、低くて、ボール球で空振り。」
「ほんまに、難儀なピッチャーや。軌道なのか何なのか、全然わからん。」
「実際の球速は、数字だけ見たら、めちゃくちゃ遅いねんけどなぁ。」
「あそこ(バッターボックス)に入ったら、めちゃくちゃ速いねん。」
ということなんです。
私も、スコアラー室や、アナウンスルーム、本部席などのキャッチャーの方向からや、モニターやテレビなどの映し方なら、軌道や独特の投げ方で、体感速度が実際より速く感じるのは、なんとなく理解できるのですが、私の場合、球場の施設の関係で、当時の藤井寺球場では、ライトスタンド側のブルペンから、神戸グリーンスタジアム3塁側、ベンチ裏スイングルームの小窓、または通路。または各地方球場などで、いろいろな角度から星野投手のピッチングを見てきました。
でも、どの角度から見ても、実際の球速とは合わないのです。ひどい時は10km以上の誤差が生じます。
まっすぐだけではなく、カーブも、フォークも合いません。
これなら実際に打席に入っているバッターは、もっと大変でしょう。打てる気がしないと思います。
回転数がどうだとか軌道がどうだとか言う考えを超えたプロの技なのかもしれません。
しかし、あるコーチが面白いことを言っていました。
それは、
「星野のバックスクリーンの球速表示が速い時。まっすぐが130km以上出てるとき。その時の方が、打者は打ちやすいんや。130km出るか、出ないかぐらいが、一番打ちにくい。」と。
これは何なのでしょうか。私は、実際、星野投手の投げた時に、バッターボックスに入ったことはありませんし、これからもありません。
この謎は解けないままです。私としては科学で解明されない方がいいと思っています。
わからないことがある方が、良いじゃないですか。今から、星野さんが当時の球を投げることができるわけではないですしね。
当時の映像を分析してもわからない、当事者同士の不思議があっても素敵ですよね。
プロの世界は奥が深い。だから、スポーツは面白いのでしょうね。
そして、当時を思い起こせば、懐かしい声が聞こえてきます。
星野投手が投げて、近鉄打線が、沈黙している時はいつも。
近鉄の観客席から聞こえてくるのは。
「おい、おい、しっかり打て~や~。あんな遅いボール、俺でも打てるわ~。」
ってヤジでした。
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