強化期間であっても、休養を必要としている選手もいる

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
最新情報をお届けします。
未分類

前回に引き続き、シーズンオフの強化期間の話。

特にピッチャーに当てはまるのではないかと思います。

私がオリックスのコーチをしている時代、こんなことがありました。
ある大学から社会人を経て、ドラフト上位指名で、入団してきた投手がいました。

彼は入団すぐに、一軍に登板、数試合はローテーションを任された時期もありました。
しかしながら、いい結果がなかなか続かず、一軍と二軍を行ったり来たりしながら数年を過ごしていました。

彼は非常にまじめで、自ら練習を考えて行っていくような選手でした。
もちろん、秋季キャンプ終了後も、ほとんど休みを取ることなく、来年に向けて、トレーニングを開始していました。

しかしながら、数年間は、肩・肘の調子もあまり芳しくなく、故障とまではいかないのですが、彼本来の状態ではありませんでした。

そんなことをしながら、数年たった12月のある日、シーズンオフの練習場所であるオリックスの合宿所で、私は彼とゆっくりと話す機会を設けました。

そして、私の率直な意見を彼に伝えました。

私は彼に、
「あなたの身体は、『がれている』と思う。調子が悪いから、今まで以上に鍛えて、来年に向けてトレーニングしなければいけないという気持ちも理解できる。しかし、あなたは、シーズン中であっても、少しでも時間があると、不安なのか、誰かを見つけては、すぐにキャッチボールをし始めてしまう。休むという考えがないように思える。
私は、コーチとして、あなたは今から練習するのではなく、数週間休むべきだ。
」と伝えました。

そして、
「ジョギングも、ストレッチも一切するな。野球のためになると思うことを一切するな。やっていいことは、好きなものを好きなだけ食べ、家でゴロゴロしなさい。やっていいことは、温泉に行ったり、家族旅行に出かけたり、子供と遊んだり、夫婦で大切な時間を過ごしなさい。野球やトレーニングに関するテレビも見るな。遊びでゴルフに行くのはいいが、野球関係者とは行くな。」と、徹底的に、野球や自分の体のことなどから意識を遠ざけるように伝えました。そして、体重・体脂肪を測定しました。「3週間から1ヶ月後には、今日の測定値よりも必ず3Kg以上は太って戻ってきなさい。次にここに来るまでは、合宿所(オフの練習場所)には立ち入り禁止だ。」と。

もちろん彼は、不安がっていましたが、私の意見に納得し、それを実践してみると約束してくれました。

そして彼はその約束を忠実に守り、約3週間後に一度、合宿所に顔を出しました。

その時の彼は、少し顔も体もふっくらとしていました。体重も3Kgほど増えていました。私は左右の肩甲骨の位置や全身の柔軟性などを確認しました。
すると、ストレッチやその他のエクササイズを一切していないにもかかわらず、かなりいい状態に戻りつつありました。
しかし私は、そこでまだ、コンディショニング再開のゴーサインは出しませんでした。

「後、一週間休みなさい。すると、もっといい状態になるよ。」と。彼の身体をいつも触っていた私は、もう少し、心も体も休息すれば、ベストの状態になると確信していました。

そして一週間後、彼が再び合宿所に来たときは、一週間前よりももっと、ふっくらとし。エネルギーが充満しているのが一目でわかりました。
何よりも彼の表情が、非常に穏やかで、自然な笑顔が素晴らしかったのを覚えています。
そして、一週間前よりも、もっと肩甲骨の位置は改善し、身体も柔軟性を取り戻していたのでした。
そしてようやく、彼に、コンディショニングの再開を許可しました。

そして次の約束は、「決して慌てないこと、キャンプにベスト体重の戻すのではなく、開幕日に合わせるんだ、ここから逆にじっくり作りなさい。」と伝えました。

そして数日後、キャッチボールを再開した彼は、以前あった肩・肘の不調・違和感が全くないことに驚いていました。心と体を戦場の場から切り離して、緩めてやることにより、すべての不調が改善したのでした。

もちろん、その後の彼は、自主トレ、春期キャンプ、オープン戦と順調に仕上がり、久しぶりの開幕ベンチメンバーに選ばれるまでになっていました。そのシーズンは、彼の最多登板のシーズンとなり、最高のシーズンとして過ごしました。
その後も、心と体の休養の大切さを知った彼は、シーズンオフの過ごし方を考えながら、引退するまで、オリックスの貴重な戦力として活躍するのでした。

11月も後半を迎えたこの時期、野球選手は来年に向けた取り組みを考えスタートを切ります。
そこで最も大切なのは、自分の心と体が今どういった状況なのか?をまずしっかりと認識することだと思います。

強化することはもちろん大切ですが、そうではなく、休養することが大切な場合もあるということをもう一度考えてみることも必要です。

心と体はいつも一緒です。心の声を聴き、身体の声を聴いてください。

きっとあなたが今からやるべきことの答えがそこにあります。

コメント

テキストのコピーはできません。